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「◆FF4 カイン夢小説」
恋のかけら(長編)

FF4 恋のかけら 3

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Final Fantasy IV・Dream Novel
恋のかけら・3




僕は見ているしかできないんだ―――

セシルの小さく呟いた言葉は、淡く春風の中へと消えていった。
「もう、ずっと」
そして振り向いたセシルの表情は、相変わらず穏やかだった。
「知らなかった…私…」
「僕達三人幼馴染なんだ。僕は孤児院で育ったけど、カインもローザも身分隔てなく接してくれたよ」
カインとローザが立ち去った後、エミルとセシルはゆっくりと校門を潜り抜けた。
すっかりと辺りは夕焼けに包まれ、ぼんやりと周辺の建物を映し出している。
「セシルは孤児なの?」
「うん…」
セシルは顔を上げて、沈み行く夕焼けを見つめていた。

バロン国は身分制度が根強く残っていた。王族や郊外に大きく館を構えている貴族達と、街に住む一般市民とは機会がない限りは接触がないのが通例だった。
現国王は少しでも緩和させようと、子供たちを兵士へと育成するバロン士官学校を設立したのだが、まだ根付いた風潮を払拭するには、相当時間がかかっていた。
「陛下が後見人になってくださったんだけど、それに反発する人もいた。得体の知れない僕を陛下が育ててくれる…だから仕方がないのかもしれないけどね」
そう言ったセシルの表情は寂しげだった。幼い頃とても辛い思いをしてきたのだろう。それに負けないよう、己をここまで鍛え上げていたのだろうか。
「そうだったんだ…ごめんね、辛い事思い出させちゃって」
「あはは、僕は気にしてないよ」
エミルは両親に育てられ、何も不自由がなかった自分を恥ずかしく思った。小さな事でなんで自分はこんなにウジウジしているのだろうか。
そう思うと、気分が急にスッキリと晴れるような気がしてきた。まだ学校に来て間もないじゃないか、まだまだ可能性があると自分に言い聞かせる。
そして横顔を見せるセシルに、笑顔を向けた。
「私は身分なんて気にしていないよ。私が育った所は田舎だから身分も何もないしね。それに、セシルはセシルでしょ。こんなに強くなったんだから、誰にも文句は言われる筋合いはないじゃない?」
「…そうだね」
「もしセシルが王になったら、私応援するから」
つられて笑うセシルの顔は、遥か遠くを見ているようだった―――

そして入学してから数ヶ月が経った。
初めは挫折しかけたエミルの心も、何か吹っ切れた様に次第にその能力を開花させていった。
辛いトレーニングにも耐え、いつしか心身共に士官候補生との自覚も目覚めつつあった。
「この間の剣術のテストの結果がでてるぞ」
「ホント?」
カインに呼ばれて、張り出された掲示板を眺める。
「凄いな、お前上位に入っていたぞ」
「やった!」
「俺とセシルは相変わらず一位、二位だけどな」
「……」
今やセシルとカインに驚かれるほどに腕を上達させ、いつしか互角にまで闘えるようになっていた。
それに合わせ三人の仲も深まり、いつしか互いにライバル視するようになり、又信頼を寄せるようになっていた。

「カイン、セシル!次の授業は移動教室だって。遅れないでよ」
エミルは二人が座る席に近づき、ポンとカインの肩を軽く叩く。
「ああ」
カインは目線を書類に向けたまま答える。
「僕達この書類に目を通したら直ぐ行くよ」
軽くセシルが手を挙げると、エミルはニコリと笑いながら教室を去っていった。
「凄いね」
「何が?」
エミルの背中を見ていたセシルがポツリと呟くと、カインは不思議そうにセシルに目線を向けた。
「エミルがね。あんなに落ち込んでいたのに、もう前を向いて輝いてる」
「ああ…、まぁ、確かに輝いているな」
「ふふ、カインのお陰かい?」
「まさか」
「無愛想なお前がエミルにだけ笑っているんだよ。気が付いていた?」
セシルの言葉に少し驚いた表情をする。
「……」
それからまた書類に視線を落とした。

ある秋の日の放課後、カインとエミルの二人は自主トレーニングの為に競技場の中央で汗を流していた。
「流石だな。素早さもあるから槍の素質もあるかもな」
「お断り。これ以上カインの顔を見たくないから」
エミルはカインの言葉にぷいと頬を膨らませ顔を横に向ける。
「なんだ、随分な言いようだな」
「当たり前!カインの教え方って乱暴なんだから、勘弁して!」
勢いよく相手の剣を己の剣で弾く度に、先から火花が散る。
数ヶ月前に見たカインと女性の姿は、体を鍛える事によって心の中から払拭されていった。
「はっ!」
隙を見せたカインに向かって剣を突き刺すが、意図も簡単に弾き返される。
「…いい手応えだが、隙を見せているのはお前の方じゃないか?」
カインはニヤリと笑むと、エミルの左肩付近を勢いよく斬りつけた。
「!!」
擦れ擦れの位置で辛うじてエミル身体は横へ反れた、と同時に風が強く吹き付けてきた。
「ちっ!」
だが寸での所で避けきれずに、金髪の長い髪が斬られ、そしてカインの目の前できらきらと舞い散った。
「…すまん…」
「…いい、私も邪魔だと思っていたから…」
二人はその場で立ち止まり、剣を下ろして無言になる。左肩付近で揺れる短い髪の束がカインの心を締め付けた。
「私、帰る」
「ああ…」
振り返らずに、エミルは休憩室に向かって歩いて行った。

いつの間にかカインが頭の中を占めていた。
それは認めざるを得なかった。
人は何故、誰かを愛さずはいられないのだろうか。
「あーあ…格好悪…っ」
休憩室に置いてある鏡を覗き込んで、溜息を大きく吐く。
片方だけ短い髪、カインに斬られた髪、それは私の心の隙を突かれた弱さ。
まだ自分はカインには追いつけない、と嫌でも思い知らされる。
「どうしよう…。このままじゃ帰れないな」
周囲を見渡すと、棚の上に誰かが置いていった小さなナイフがあった。それを手に取り、鏡を再び覗き込む。
「また伸ばせばいいよね…」
背の中ほどまで伸びた髪の束を掴み、そしてナイフをあて、勢いよく横に引いた。

バサリ、と小さな音と共に、長い髪が床に落ちていく。

「似合うぜ」
「…!カイン」
休憩所の扉を開けると、目の前にカインが立っていた。その姿に驚き、エミルは危うく叫びそうになった。
「本当にすまない」
「大丈夫、気にしないで」
「髪は女の命だと言われているんだよな…悪かった」
あの無愛想なカインでも謝る事があるのか…と、エミルは心の中で感心すらしてしてしまった。
秋風に吹かれて、短くなった髪が肩先で揺れる。カインの視線がそれを追っていた。
「もう、今日のトレーニングは終わりでいい?」
「判った。俺も帰るよ」
そして、帰り支度を終えた二人は並んで帰路に着く。
季節は緩やかな風をもたらし、脇に広がる黄金色の草原の間を吹き抜けていた。
ゆっくりと通いなれた道を歩くが、お互い言葉が見つからずに無言になっている。
「近々バロン周辺で魔物の掃討作戦があるらしい。俺たちも呼ばれそうだ」
「魔物の?」
突然口を開いたカインに振り向く。
「もう、俺達は兵士としてバロンの為に尽くせるんだな」
「そうなんだ!髪切っといて良かった」
エミルは喜びを隠せずに笑顔になった。思わず拍手までしてしまう。誰もいなかったら飛び跳ねて喜んでいただろう。何せ国の為にと上京してきた甲斐があったのだから。
「何故だ?」
だがカインの低い声がそれを制した。
「鎧には邪魔でしょ?」
「…お前は参加させない」
「どうして!?」
エミルはカインの言葉が理解できずに、言い返す。
「お前は…女だからだ。だからつまらない事で自分を傷つけるな」
それは心の奥底から搾り出すような言葉だった。
「なんで?!私が女だからって闘いに参加できないって?近衛兵って女性もいるでしょ?カインの考えは間違っている!」
「……」
それから黙り込んでしまった。その態度に再びエミルは怒りを覚えて、言葉を続ける。
「ローザもそんな扱い?大事にして、傷つけないように隠して…」
「何で知っているんだ」
「……!」
突然カインは表情を変えた。
それは怒りのような、悲しみのような、表情だった。



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