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「◆FFX ティーダ×ユウナ」
NEXT GENERATION(長編) ティーダ×ユウナ

FFX Next Generation 13

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Next Generation 13 HEART BREAKE COLOR


夕日は次第に影を落とし、色濃く闇が訪れる。
キーリカの闇は何故か不安な心にさせるんだ。
以前ユウナ達とここを訪れた時、初めて『シン』の脅威を目の当たりにしたから…だと思う。
悲しみに暮れる人々、そして残された大人達。子供の遺体も多くあった。
傍で泣き崩れる親達を見ると胸が痛かった。
俺はあの時…『シン』に襲われた時、なんで無事だったんだろう…なんて思ったりもした。だけど、生きているこの瞬間が凄く大切な事に、今更だけど気がついたんだ。

そして…。
人が死ぬとユウナは異界へと送るために踊る。遺体から離れる幻光虫が天に帰るまで、ユウナは踊りつづける。
それを初めてみたのも、このキーリカの夕闇だった。


月光はどこまでも広がる暗闇に淡く一筋の光を落とし、幻想的な世界を作る。
そして俺達の泊まる宿をも明るく照らした。


「メシさめるぞー!」
ベッドで横たわる俺にオヤジが声をかけてきた。
「なんだぁ?真っ暗で…明かり付けろよ」
「ほっといてくれよ」
考え事をしていたら、何時の間にかすっかり暗くなっている事に気がつかなかった。
「…後で行くよ」
顔を合わせずに答えると、わかったよ…と言うような身振りをしてオヤジはその場を立ち去ろうとした。
「メシ…食いたくなったらこいよ」
その言葉に慌てて顔を向けると、オヤジの表情(かお)が…少し寂しげだった。
俺はすぐ起き上がり、後を追ってドアを開けた。

宿の中央の部屋にはいくつかのテーブルが並べてあって、端の方でブラスカ達の姿をみかけた。
他に人もいなくて、宿泊客は俺達だけだったみたいだ。
「やあ、てっきり寝てしまったのかと思っていたよ」
ブラスカの笑みは何故か安心してしまう。きっとユウナに似ているからなんだろうな。
そんなことを思いつつ、一つ空いている椅子に座った。
真向かいはアーロンが座り、先ほどから酒を片手に何かを食べていた。
「ア…アーロン…」
「なんだ?」
またもや意外だった。
「俺…アンタが酒飲んでいるのを見たことないッスよ」
「そうか?」
…っつーか、皆と食事しているのを見たことない気がする。
「あまり騒いで食事するのは好かん。酒とツマミがあればそれでいい」
「あ…ああ」
俺の驚いた表情にブラスカは笑っていた。
「昔はよくジェクトと飲んでいたね。私もたまに付き合わされた事もあったよ」
「ん、あぁ~。あん時は悪かったな」
オヤジは恥ずかしそうに頭を掻いていた。
「シパーフ乗り場の時は大変だった。あれからジェクトは禁酒しているんだよ」
思い出話に勢いがついていたが、ふとブラスカは俺に話題を振った。
「ああ…知っている。前にオヤジのスフィア見たんだ」
オヤジ達がスフィアに撮影した映像に、その日の事があったから覚えている。
ザナルカンドにいるときは、一時たりとも酒を離さなかったのに、スピラに来てからパッタリと止めた事に意外だった。
なんか、ここに来てから普段と違うオヤジの面を見た事に内心複雑だった。
「昔…オヤジがいなくなった時は、色んなウワサがたったんだぜ」
「噂?」
オヤジは俺を見ていた。
「酒を飲んで溺れて死んじまったとか…引退を決めたから姿を晦ましたとか…毎日ニュースで報道されてて…取材もファンの人も大勢家に押しかけてきたんだ」
「けっ、言わしとけよ」
吐き捨てるようにオヤジは横に首を振る。
「だけど…俺…」
一瞬、言葉に詰まる。
アーロンもブラスカも俺を見ている。何故だろう…堰を切ったように言葉が溢れだしてきた。
この10年、色んな事があったんだ。一番哀しかったのは…。
「俺、オヤジは死んでないって思っていたさ。だけど…だけど母さんは…」
「あいつが…」
言葉が続かない…だけど、これだけはオヤジに言いたかった。
「母さんは…周りのヤツらに言われ続けたんだ。『ジェクトは死んだ』って…ずっと言われ続けて…」
それでもオヤジを愛し続けて、待ち続けた母さんは辛かったんだ。
俺を見てオヤジの影を見ていたのかもしれない。それからあまり話をしなくなって…どんどん体が弱くなっているのは子供心に判った。
だけど俺にはどうする事もできなかったんだ。母さんの悲しみを俺が消すことはできないんだって。
「母さんが死ぬ時…ずっと、アンタの名前を言っていたよ」
俺じゃなくて…愛した男の名前。
それから益々オヤジがキライになっていったんだ。

「アンタの……!」
何故か急に怒りが込み上げてきた。胸が詰まって張り裂けそうになった。
勢いよく椅子から立ちあがる。その勢いで座っていた椅子が派手な音をたてて後ろに倒れ、それからオヤジを真っ直ぐに睨み付けた。
「アンタの所為で母さんは死んだんだ!!」
「ティーダ!!」
アーロンが怒鳴った。
判ってる。
ホントは判ってんだ。
涙が溢れてくる…ぼやけて見えるオヤジの表情…
すごく、哀しそうだった…。

はっと我に返る…息は荒くなり、肩が震えた。

「ははは…オレ…」
オヤジは笑っているのだろうか、それとも泣きたいのだろうか…そんな表情を一瞬見せてから腕を上げて首に手をあてた。
「オレ…なんだか船酔いしちまってるみたいでよ…疲れたから先、寝るわ」
そう皆に告げてから立ちあがった。
「オヤジ…ごめん…」
後悔しても、どんなに謝っても、もう遅い…。
オヤジは無言でその場を立ち去っていった…

最悪だった。
こんな事を言いたかったんじゃない。だけど10年という時間は俺にとっては長すぎて…母さんが死んでから、周りの人たちは俺を哀れむように見ていたんだ。
それが、とても嫌だった。
ここにオヤジがいればこんなことにならなかったんだろうって、いつも思っていた。

部屋に戻り、俺は再びベッドに横になる。
暫くすると闇と共に、あの時のオヤジの顔が忘れられずに何度も浮かび、頭を振り思いきり目を閉じた。
だけどいつまでも脳裏から離れなかった。
「くそっ!」
勢いよく起き上がり、そして気を紛らわせる為に外の空気を吸おうとドアを開けた。
向かい合わせにはオヤジの部屋…。だけどそこを開ける気にはならなかった。

外へ続く重いドアを押し開けると、ギギ…と立てつけの悪い音と共に闇夜が見えてきた。
「……?」
すると暗がりの中で立ち尽くす人影が映る。誰だか確かめようとそろそろと歩いていくと、見なれた顔が現れてきた。
「……アーロン」
「眠れんのか?」
「アーロンこそ…」
真っ暗な静寂の中、宿の外で漂う幻光虫が目立っていた。
「こんなに幻光虫って沢山いるのか?」
前に見たよりも更に数が多くなっているような気がする。アーロンは淡い光を目端で追っていた。
「…恐らく、行き場を無くして漂うしかないのだろう…」
「行き場?異界じゃないのか」
「…さあな…」
アーロンの言葉に意味を感じていたけど判らなかった。
そしてお互いに無言になった。
「…前から聞きたかったんだ」
「なんだ?」
ずっと俺を小さい頃から見守り続けていてくれたアーロン。
そして生きる事の意味を伝えて、再び異界へと旅立っていった。だけど今ここにいる。
だから、聞きたかった。
「俺の事…ずっと見ていて辛くなかったか?」
「お前を?」
判ってる、この質問に意味がないってことが。死人になるには強い思いがないとなれないんだって、知っていたから。
「…愚問だな」
「悪かったな」
ズバリと言われて、俺は俯いてしまった。
そんな俺を真っ直ぐに見て、少しはにかんだ表情を見せたかと思うと突然歩き出した。
「ア…アーロン?」
慌てて後を追いかけた。

無言で歩き続けた先には、さっき子供達と遊んだ桟橋が見えていた。今は暗闇で何もなく人影もなかった。
「ア…アーロン…ドコ行くんだよ」
「あそこでは話ができん。お前も泣けないだろう」
「だれが…っ!」
ちょっと腹が立った。そりゃ泣き虫は自分でも認めるけど、言われると反論したくなる。
「話って…なんだよ」
桟橋の端まで進むとアーロンは立ち止まり、その先の海を見つめていた。
暗闇の海は空との境が無く、天も地も判らないこの空間が不安にさせる。
だけどアーロンの瞳はとても遠くを見ているようで、この何も判らない闇の中で何かを思っているのだろうか。
「懐かしいな…」
ふと、そんな事を漏らした。
「アーロン?」
すると、俺の問いに答えるかのように振り返った。
「あの日は…寒かったな…」
母さんの死んだ日の事…。
「ああ…」



雨が降りしきる夏の日。
その日は朝から景色が淀んでいた。時折、近所のおばさん達が慌てて家のドアを出入りしていた。
俺は中に入っちゃ行けないと家の外に待たされていた。雨避けの戸井は風が吹くと意味がなく、激しく斜めに降る雫は服を濡らしていく。
でも家の中に入りたくなかった。
『……もう…手遅れ……そう』
『…かわいそうに…のこって…』
時折、部屋の中から声が漏れて聞こえた。そんな言葉は聞きたくなくて慌てて耳を塞ぐ。
母さん…母さん…いっちゃヤダ…っ
心の中で何度も叫ぶ、すると突然ドアが開いた。
「ティーダ…っ!お母さんにお別れの挨拶をしなさい」
「やだ…やだよ…」
俺は認めたくなかったんだ。
「ティーダ!!早く!」
「やだぁ!!」
夢中で外に向かって走った。
―――今思うと何故すぐに戻らなかったんだろうって、後悔してる。
気がつくと公園でさ…。雨は一層強く降っていた。
「母さん…やだよ…っ」
もう病気で手遅れだと言うことは子供心に判っていた。オヤジがいなくなってから、みるみるうちに痩せ細っていって…
つがいの鳥は独りじゃ生きていけないんだって。聞いた言葉を何度も心で繰り返しては母さんは違うって、否定してきたんだ。
だけど本当だった。
母さんは独りじゃ生きていけなかったんだ。
「アイツが…いけないんだ…」
本当は誰の所為でもないんだ。
でも誰かの所為にしなくちゃ、やり切れなくて…立っていられなくて、その場でしゃがみこんで泣いた。

「家に戻れ」
不意に頭上から声が聞こえた。
顔を上げると、数ヶ月前から俺の前に現れた男が立っていた。傘もささずに雨は重い鎧から全身を伝わり、その先からは雫が滴っている。
「アーロン…」
無言で俺の腕を掴んで立たせると、そのまま歩き出した。
「やだよ…やだってば!離せよ!」
喚く俺を無視して、尚も引き摺って歩く。
「……あの人は異界に旅立つ。別れを言ってこい」
「イカイ…?」
「死を認めた者だけが行く世界だ」
何が何だか判らなかった。
「…これは死とは言わん。永遠の旅に出るだけだ」
一瞬、前に言った俺の言葉を気にしているのかと思った。
「母さんは…死ぬんじゃないの…」
涙声で擦れた俺の声にアーロンは力強く答えた。
「ああ、そうだ」
段々と元いた場所に近づくと、手を引く力が緩んでいった。そして俺は走って家に戻り、濡れた体のまま母さんの部屋に入っていった。
でも…手遅れだった。
「ティーダ…たった今お母さんは息を引き取ったのよ…ずっとあなたとジェクトさんの名前を呼んでいたわ…」
横に立つおばさんが泣きながら言った。
違う…きっと母さんはオヤジの名前だけ言っていたんだ…だって看病している間、一度も俺の名前なんて呼んでくれなかった。
「さ、ティーダ。お別れの挨拶をしなさい」
おばさんがベッドに横たわる母さんの傍へと促した。
瞼を閉じ、眠っているかのように映る母さんの顔…まだ暖かく痩せた体。
死んでなんかいない。
「…母さんは死んでなんかいないよ。他の世界に旅立ったんだ。だからいつか会えるよ」



「今思うと、その時から異界の存在を聞いていたんだな」
「思い出したか?」
横に立つ俺を目端で捕らえると、そのまま海を見つめていた。
「うん…」
頭を擡げ俯いた先には、木板で作られた真新しい床張りが敷き詰めてある。それを足先で蹴るように弄ぶ。
あの日の思い出がずっと脳裏に焼き付いて離れなかった。母さんは死を受け入れていたから、グアドサラムの異界の入口でまた会うことができた。
あの時の表情は何処か哀しげで…また俺をオヤジと重ねて見ていたのだろうか?それとも『シン』になったオヤジを開放して、ここに呼んでくれと願っていたのだろうか?
「…はは…」
何だか急に笑いがこみ上げてきた。
「あの人はジェクトとお前がまた和解してくれる事を願っていた」
「あ…?」
突然、信じられない言葉がアーロンの口から告げられた。
思わず顔を上げる。
「なんで、アンタが知っているんだよ」
「…あの人には…ジェクトの生存を話した…病に伏し意識無い時だったがな」
以前、母さんに死なれては困るとアーロンは言ったことがあった。きっと母さんを勇気つける為に真実を伝えたのだろうか?
「だが、あの人は微かに目を覚まし最後にこう言った…『息子を頼む』と」
俺を一人にさせたくない。だからアーロンに最後の頼みを言った。
そうなんだ…。
母さんは俺を見ていてくれていた。

「お前達がまた共に暮らせる日を願い、見守っているだろう」
そして、降り向いて俺を見るアーロンの言葉と表情は優しさを含んでいて、穴が開いたままの俺の心を塞ぐように染み渡っていった。
「そんな事…アンタ一度も言ってくれなかったじゃないか…なんで…なんで今更言うんだよ」
反面、怒りとか悲しみとかが混同していて、俺の心の中は複雑な彩りをしていた。
だけど…涙は溢れて止まらないのは確かだった。
「…っつ…う…っ」
「やはり、お前は泣き虫だったな…ジェクトとあの人も心配をしていたな」
反論をしようとしたけど、涙声では言いたくなかった。
立ち尽くしている俺にアーロンは近づき…そっと頭を掴み自分の胸に寄せた。
それが意外とか、ぎこちないとか思ったけど、アーロンの全身から優しさが伝わってきた。
その体から伝う温もりが安心にさせる。

ありがとう…。

涙は溢れて止まらない、だけど…拭うことも忘れていた。
「…俺…オヤジと…話したい……母さんの事…」
「お前次第だ」

天も地も判らない闇夜の中、アーロンと俺はいつまでもその身を委ねていた…。




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